ファイトケミカルの重要性

ファイトケミカルの重要性

ここでは、癌をはじめとした疾病の予防医学の観点から、ファイトケミカルの重要性についてまとめてみました。

癌はわが国死亡原因NO.1

厚生労働省統計において、悪性新生物(癌)は脳血管障害に代わってわが国の死亡原因第1位となっている深刻な疾患です。医療技術の進歩により、癌治療は進歩しているにもかかわらず死亡率の低下につながっていないのが現状だといえます。その様な状況下、昨今では、「癌の予防」の重要性が指摘され、国家戦略の1つとして取り上げられるようになってまいりました。

疫学調査から

疫学的調査から野菜・果物を摂らない人は十分摂っている人に比べ、「約5倍の確立で癌になりやすい」と報告され、癌は食生活を含めたライフスタイルを改善することで予防できることがわかってきました(図)。
海を渡ったアメリカでは、デザイナーズフードプログラム(癌予防の可能性のある食品をリスト化したもの)が、1990年に米国国立癌研究所により発表され、野菜・果物・ハーブ等の摂取啓蒙活動を国策として実行しています。

癌発症までの年数と癌細胞数

癌は長年にわたり遺伝子の異常が蓄積されて発症する病気です。まず、図2をご覧ください。この図は、癌細胞の発生から、癌発症にいたるまでの癌細胞の倍増回数と癌細胞数の相関を表すグラフです。癌細胞の発生から癌発症までに、癌細胞は30回程度倍増しており、その時のガン細胞数が10億個であることを示しています。
30回と10億個を結ぶ斜めの線の傾斜がゆるくなるということは、癌の発症を遅らせる(癌細胞の増殖スピードを遅くする)ということがいえます。
岐阜県国際バイオ研究所に所属する我々は、癌細胞の数が、図2に示す10億個以上に増殖するスピードを抑える化合物を、長年にわたって探索してまいりました。

ファイトケミカルとは?

さて、ファイトケミカルとはどのようなものなのでしょうか?人間が生きていくために必要な7番目の栄養素であるといっても過言ではありません。

  • 3大栄養素 (炭水化物・脂質・タンパク質)
  • 5大栄養素 (3大栄養素+ビタミン・ミネラル)
  • 6大栄養素 (5大栄養素+食物繊維)
  • 7大栄養素 (6大栄養素+ファイトケミカル)

ファイトケミカルとは、植物に含まれる非6大栄養素のことで、専門的には二次代謝産物といわれる化学物質のことを示します。例えば、お茶の成分である「カテキン」はフラボノイドとよばれる二次代謝産物の1種のことで、ファイトケミカルの1つです。ファイトケミカルは、植物自体が内部や外部の環境から身を守ったり、適応するための成分として役割を果たしていると考えられています。すなわち、ファイトケミカルを摂取することで、人体へも何らかの影響を及ぼしていることが考えられます。

ファイトケミカルの探索
(マンゴスチン果皮エキスの有効性)

疫学的見地からも、野菜、果物等には元来備えている多彩な生理作用をもつ成分(ファイトケミカル)があり、これらを濃縮し活用することは、癌の予防もしくは発症遅延につながると考えられています。

我々は、これまでに数百を超える天然由来物質の検索を行い、安全で抗腫瘍効果を有するマンゴスチン果皮エキス(パナキサントンエキス)を見出しました。この天然物質は、抗癌活性は抗癌剤である医薬品:5−FUと比べても劣らず、癌細胞において活性化されている増殖シグナルを抑え、アポトーシス(細胞が自ら死んでいくこと)シグナルをoffからonにする(癌細胞はアポトーシス機能が不全になっているので増殖し続けます)、理想的な癌予防に資する天然物質であることが明らかになりました。さらに、マンゴスチン果皮エキスは、癌細胞を駆逐してくれるNK細胞(免疫細胞の1種)の活性を上げる効果を有することも明らかとなったわけです。

まとめ

以上、マンゴスチン果皮エキスの研究成果を中心にファイトケミカルの効果効能について記しました。
ファイトケミカルについては、現在、世界中で多く研究されるようになってまいりましたが、効果効能データ(エビデンス)を明らかなものとし、その様なデータを蓄積することで、様々な分野に応用することが可能です。ファイトケミカルが医薬品・医薬部外品・化粧品・農薬・食品添加物・香料・色素・機能性食材等に応用されているケースが非常に多く、人々の生活にファイトケミカルはなくてはならないのも事実。我々は、今後更に、ファイトケミカルの有用性と応用方法論について、日々研究を続けてまいります。

岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科
教授 赤尾幸博