マンゴスチンについて

マンゴスチンとは?

マンゴスチンという植物は東南アジアが起源で、現在では、「果物の女王」として高級フルーツとして栽培されています。大航海時代に7つの海を支配した大英帝国のビクトリア女王が「我が領土にあるマンゴスチンをいつも味わえないのは遺憾である。」とのコメントを残したとのエピソードもあり、「果物の女王」と呼ばれる所以であるとも言われています。

日本でも百貨店や一部スーパーではシーズンになると販売されている場合もあるようですが、まだまだ馴染みはうすいようです。

マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)はオトギリソウ科(Guttiferae)の植物で、東南アジアでは下痢や便秘の治療に使ったり、虫歯の治療に使ったという実績があるようです。つまり、民族伝承薬物の1種だということになります。

マンゴスチンには色々な機能を持つ成分が含まれている

植物の樹皮や果皮、根の部分には、植物自体が内部や外部の環境から身を守ったり、適応するための成分が多く含まれています。植物が太陽のエネルギーを利用しながら自ら生合成し、部位に貯えられたこれら成分のことを「植物二次代謝産物」あるいは「ファイトケミカル」といわれ、生態系で極めて重要な役割を演じています。昆虫から身を守るためにまた細菌に感染しないようにするために、昆虫忌避物質を作ったり、抗菌性物質を産生します。太陽からの有害な光を吸収し、遺伝子の損傷を保護するために、UV吸収能力のある成分や抗酸化活性物質も作ります。

写真をご覧頂いてもわかりますが、マンゴスチンの果実に傷がつくと(害虫や鳥、その他物理的刺激)、黄色い粘液物質が分泌されてきますが、この粘液物質に含まれる成分がマンゴスチンの種子を守る役割を果たしています。

植物成分の恩恵

我々人類はそんな植物成分から、医薬品や生活に欠かせない物質的な恩恵を受けています。
たとえば、ケシの樹脂からはモルヒネ、モルヒネが加工されて咳止めのコデインに・・・、コカの葉からは局所麻酔のコカイン、ヤナギから抗炎症剤のアセチルサリチル酸等・・・、日常生活では除虫菊を蚊取り線香に応用したりしています。人類は実に多彩な形で植物二次代謝産物を医薬品や生活必需品として利用していることがご理解していただけたと思います。

マンゴスチンをはじめとしたオトギリソウ科植物には、キサントン(xanthone)類という成分が含まれており、世界中でこの成分の研究があまり行われていないという背景から、私たちの研究グループは、1993年頃からオトギリソウ科植物に含まれるキサントン類を中心とした化学的な構造の解明と様々な生理活性機能の研究をスタートしました。

マンゴスチンに含まれる成分とその生理活性研究の経緯

マンゴスチンの果皮には、α-マンゴスチン(α-mangostin)やγ-マンゴスチン(γ-mangostin)と呼ばれる成分(いずれもキサントン誘導体)が含まれていますが、これらの成分で、まずはじめに明らかとなった生理活性が抗菌活性で、今話題の院内感染(MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)にも有効であることが明らかとなりました。これが1997年の研究で、研究をスタートしてから4年目の実績になります。MRSAに有効でしたから、VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)に対しても調査をすれば、VRSAにも有効であることも明らかになりました。
つまり、現在全国の病院施設で問題になっている院内感染の解決の糸口になる可能性が示唆されたわけです。

研究は更に広範囲に展開でき、抗癌活性を有する可能性も明らかとなってきました。同じく1997年のことです。ガン細胞の細胞分裂に欠かせない酵素であるトポイソメラーゼという酵素を阻害することが見出されたわけです。この研究成果がキッカケで、さらなる抗癌活性に関する研究がスタートしました。

岐阜県国際バイオ研究所との共同研究がスタートしました(財団法人岐阜県国際バイオ研究所所長・岐阜大学医学部名誉教授 野澤義則先生、岐阜県国際バイオ研究所 腫瘍医学研究部長兼健康有用物質研究部長 赤尾幸宏先生との共同研究)。生物活性に関する学際的な研究スタートの第一歩です。その成果は2000年に結実します。
この共同研究の成果は、学術界では非常にセンセーショナルなものでした。

その成果とは・・・

マンゴスチンに含まれるα-マンゴスチンとγ-マンゴスチンが、ガン細胞選択的にアポトーシスを誘導するという事実です。
正常な細胞は、ある一定の状態になると増殖するのをやめる細胞です。また、細胞の遺伝子が自らの細胞を死に至らしめるシグナルを出すことで、無限の増殖を抑えているわけです。簡単に表現すると、細胞が自分で死んでいく能力を持っており、それがアポトーシス(細胞死)能力といわれていますが、ガン細胞は無限に増殖を続けてしまう・・・、つまり、アポトーシス能力が欠如した細胞がガン細胞ということになります

左が普通のガン細胞で、右がα-マンゴスチンによってアポトーシスが誘導されている細胞

α、γ-マンゴスチンは、正常細胞には全くといっていいほど影響を与えず、ガン細胞だけに作用して、アポトーシスを誘導する機能を有するということが明らかになったのです。
さらに、これらの物質はガン細胞のセルサイクル(細胞分裂)の異なったステージに作用することも明らかとなりました。どういう事かといいますと、ガン細胞が増え続ける細胞周期の初めにα-マンゴスチンが作用し増殖を抑え、γ-マンゴスチンが細胞周期の終わりに作用し増殖を抑えます。つまり、α-マンゴスチンとγ-マンゴスチンは別の作用機序を有するということで、ガン細胞の増殖に対して、相加・相乗効果が期待されるということです。
これは、非常に注目されるべき研究で、これまでの制癌剤研究というカテゴリーにおいても、そのような物質は見出されておりません。

現在、臨床で使用されている抗がん剤といわれる医薬品類は、ほとんどが細胞分裂を阻害するという作用機序を有します。つまり、細胞の息の根を止めてしまうということ。
当然、ガン細胞にも作用しますが、正常細胞にも作用します。副作用が強烈ということです。

α、γ-マンゴスチンという成分は、医薬品成分ではないということと、抗癌の臨床での治療実績は現在研究中です。しかし、非常に有望な素材であるということと、現在使用されている抗がん剤や物理化学的療法と併用することで、患者様の副作用の軽減や再発の防止といった効果が期待される素材であることは間違いありません。

今後の研究・展開

私たちの研究チームにおいては、前述の生理活性を含めた様々なエビデンスを構築してまいりました。現在も、マンゴスチンに関する研究は継続しており、国内外の共同研究者も増えて、研究はこれまで以上に活発化しております。
今後は、ガンという疾病に関する研究も継続しますが、それ以外の炎症性疾患等に対する学術的な研究エビデンスの拡大に向けて、チーム全体が努力する所存です。

岐阜薬科大学 名誉教授
飯沼宗和